Salesforceで感じた事

 顧客管理ツール、いわゆるCRMは世に色々と出回っているが「Salesforce」はシェアも高く、結構利用者が多いようで、わしの取引先も商談時の雑談でSalesforceを使っているという企業に何度か出会った。
 かくいうわしの所属する組織もSalesforceを導入されており、これさえ入れれば効率爆上がりの売上激増だぜという謳い文句で、トップダウンで決められた。

 Salesforceに限らず、顧客管理ツール(CRM)の導入がトップの意向で決まった、もしくは導入を検討しているという人のために、2年ほど使ってみた実際の感想を書いていこうと思う。

 まずSalesforceは良くできている。予算さえつくならいくらでもカスタマイズ出来るし、各営業担当は情報共有、ダッシュボードでの進捗確認、引き継ぎ等がスムーズだし、管理職も数値管理が効率的に出来る。
 確かにこのままの内容をそのまま顧客に伝えれば「あ、うちも導入したい」となる。間違いなく良いツールだ。

 ただそこから先はネックとなるのは「使用者が使い切れるか」に尽きる。例えば見込み案件を管理していこうとすると当然1件1件案件を入力しなければならない。ユーザー名、担当者、商談のやり取り内容、紐づいている商品、見込み金額、案件のフェーズ、そしてTodoを作り、と、一見簡単そうに見える作業だが、これもチリも積もればなかなか大変な量で、たしかに作業そのものは簡単だが、わしの組織では「面倒くさい」「効果がない」「うちの部の商品には向いていない」という様々な理由で、複数の部署が脱落していった。

:「面倒くさい」という理由
 なぜ「面倒くさい」と感じるのかは単純に「営業にとってこれは良いと実感出来てない」からであり、目に見えて売上、利益が上がった、つまり「効果がある」と感じなければ面倒くさいことこの上ない。
 営業1個人が担当している客先、案件は会社にもよるだろうが、数件しか担当していないというケースはほとんどなく、下手すると200~300件くらい同時進行でやってる人もいるのではなかろうか。
 それを毎日逐一となると、要は日報どころか、日報以上のことをこまめにやるという作業になる。

 顧客管理というのは大前提として「入力がきちんとなされている」のが必須条件で、しかも部内全員がやらないと情報を共有しようとしても不完全であり、やる気のあった営業もそういった小さなストレスからモチベーションが下がっていくので、とにかく上層部が尻を引っ叩いて1年くらいかけて習慣にする事が絶対である。

:「効果がない」「うちの部には向いていない」という理由
 「効果がない」と感じるのは人それぞれとは思うが、個人的に思うのはある程度成熟した営業であれば各々の独自のやり方で、一定の管理は出来ている。つまり、Salesforceを導入したおかげでやることの漏れがなくなったぞ、というようなケースはあるにはあるが少なく感じた。
 また、担当者が健在であるうちは情報の共有の必要性は案外少ない。部をまたがって共通の行き先(ターゲット顧客)があるというケースは役に立つが、同じ部署の人間であれば大きなトピックスは月例会議等でそもそも共有されている。この会議が省略できるとかになると効果が凄く大きいとは思うが、まず会議が省略できるほどの入力や活用の習慣を植え付けるとこからはじめる企業であればそのような効果が期待できるのは何年も先、少なくとも1年は絶対かかるだろう。
 ただ、管理職やプロジェクトのリーダーは各商談のフェーズや内容、優先すべき案件を一覧で簡単に把握し、都度各担当者に個別に確認出来るという点は有効で、例えば商談開始から成約までのサイクルの短縮や、優先度の高い案件の進行が短縮できることは期待できる。
 期待できるのだが、これも商材によりけりで、客先が予算を取らないと結局進まないといったある程度の規模の金額であったり、設備系の営業でスパンが長い商品であれば大差は出ない。
 わしの場合は機械に使うパーツ販売がメインだったが、それを試す事が出来るのは顧客の閑散期に依存することが多く、せいぜい「次の面談時に何を決めてくるか」「予定通り試してくれているか」のリマインドに留まってしまう。
 こういった事があると「うちの部の商品には向いていない」というもっともらしい理由を付けて、使用を止めてしまう部も出てくるのである。

 他の部署が途中で放り投げる中、なんとかわしの部は2年ほど継続したが、「Salesforceを導入したコストを上回るくらい目に見える利益が上がった」という証明が出来ていない。営業は自分の数字には敏感で、効果を実感できる数字、サイクルは肌で感じるレベルでは発生していない。
 ただ、管理職としてはダッシュボードとレポートの活用で業務効率は上がっているとは思うし上がっていないとおかしい。実際、特定の商品や商談を集計、分析するのは楽だ。しかしそれを金額に換算するとどうなのか。わしの場合は導入前はEXCELに出された受注データでフィルタを使用してレポートを作っていたし、進行中案件についてはそもそも各営業がEXCELでまとめていた。つまり、似たようなことは既にやっていて、それが一元管理出来るようになったというのが実情なので、余計にメリットの換算が難しい。
 導入前の業務時間、導入後の業務時間をしっかり見ておかないと、検証は出来ないので、導入する企業は効果をどうやって図るかもふまえて検討すべきである。

 例えば管理職の労働時間が月に20時間削減出来ました、となれば

:20時間×5,000円(社会保険料も含む人件費)=100,000円
はシンプルに分かりやすい。あとは浮いた20時間で何が出来たかによる。しかし当然Salesforceのコストもかなりかかっている。

 会社としてはこれだけの利益を享受出来ましたよ、という大義でもなければ社員はなかなか動かない。ましてやある程度キャリアの積んだ人間は自分のやり方を簡単に変えようとしないし、変える意志はあったとしても、どうしても習慣化に時間はかかる。
 長々と書いたが、とにかく「しっかり使えばよく出来たツール」なので、「しっかり使うモチベーション」や大義名分をどう引っ張ってくるかが鍵である。そもそもの出資者である会社、つまり貴方の組織がどれだけ利益を出したかも大事なのは当然である。
 導入前のプレゼン等では理解したつもりでも、完全に活用するまでの道のりは思っているより長い。導入した側がいかに成功体験を得るか、しかもその成功体験は少なくとも営業と管理職、それぞれ別の役割を持った2つを同時に満足させなければならない。もちろんそうなるように各CRMもセミナーやサポートに力を入れている。

 少なくとも「何かCRMって流行ってるみたいだしうちも導入しよう」という軽い気持ちはNGだ。導入してからどう定着させるか、実際に使う社員たちにどう納得させるか、「入力してこそ活きるツール」という事をゆめゆめ忘れずに導入すればSalesforceはじめ各CRMは良いツールとなるだろう。

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