
近年、生成AIの急速な進化により、イラストや写真、音楽などの創作物の制作がますます身近になった。その一方で、「AIトレス(AIトレース)」という新たな言葉とともに、著作権や創作倫理に関する議論が活発化している。「AIトレス」、「AIトレスのイラスト」とは何か、その行為がもたらす問題や考えるべきポイントについて掘り下げてみよう。
AIトレスとは?
「AIトレス」とは一般的に、生成AIによって作られた画像を、下絵や参考資料として利用し、手作業でなぞる(トレースする)行為を指している。特に、他者が生成したAI画像をトレースする場合に問題視されることが多く、イラスト界隈では炎上や批判の対象になることも。
通常の「トレース」との違いは、元となる画像がAIによって生成されているという点にある。AI画像自体の著作権が曖昧であることから、著作権法では直接違法とされるケースは少ないものの、創作物のオリジナリティや倫理面での問題が浮かび上がっている。
なぜ問題視されるのか?
AIトレスが批判される主な理由は以下と考えられる。
- 創作の正当性が問われる
AIによって生成された画像をなぞるだけでは、創作者自身の技術や創意が問われにくく、「自分で描いていないのでは?」という不信感を生むことがある。 - 第三者の画像を無断で使用する可能性
AI画像がそもそも他人の作品を学習して生成されている場合、その画像を元にしたトレース作品も、間接的な著作権侵害になると主張する人もいる。 - AI画像の出自が不透明であること
AI生成物の多くは「どんな画像から学習されたか」が明示されないため、トレースした元画像に元ネタとなる作家の絵柄が混ざっている可能性も否定できない。
法律上の位置づけは?
2024年4月時点では、AI画像をトレースすること自体は違法ではないとされているが、以下のようなケースでは法的トラブルに発展する可能性がある。
- 明らかに他人の作風を模倣したAI画像を使っている場合
- 商用利用やコンテスト応募など、収益や公的評価を得る目的で使用した場合
- 元のAI画像が他者の著作権を侵害していたと判明した場合
特に商用利用の場面では、元画像の出所や使用許諾の有無についての確認が必要です。自己責任での使用が原則となるため、慎重な判断が求められる。
倫理的な観点から考える
AIトレスを巡る議論は、法的な白黒だけでは測れない倫理の問題でもある。「手軽に描けるから」「プロのように見えるから」という理由で安易に利用することで、本来の創作の意味や苦労が軽視されるという懸念がある。
とはいえ、AIを参考資料として活用すること自体が悪いとは限りらない。大切なのは、「どの程度AIに依存しているのか」「どこからが自分の表現なのか」という点を明確にし、創作の透明性を保つことではないだろうか。
まとめ
AIトレスは、今後ますます普及するであろうAI時代の創作活動において、避けては通れないテーマである。完全に否定するのではなく、「どう使うか」「どのように説明できるか」を一人ひとりが考えることが大切ではなかろうか。
創作の自由と責任、そのバランスを見極めるためにも、今後の議論とルール整備に注目していきたいところである。ただし、個人が練習の範囲で生成する分には問題ないし、効果的な練習ではないかと思う。